マンション敷地内の駐車場について、特定の区分所有者だけが専用使用する事ができる権利を分譲業者が販売している事がありました。

本来、マンション共用部分や敷地は、各区分所有者の共有とし、区分所有者全員が使用する権利がありますが、これを分譲時点において分譲業者が対価を得ながら、「専用使用権のある駐車場」として売っていたわけです。

専用使用権を持っていない区分所有者が、駐車場を必要とする場合には、管理組合と駐車場使用契約を締結して、管理組合に使用料を支払うことによって使用可能になります。しかし専用使用権者は、分譲当時に料金を支払ったまま契約締結をすること無く、管理組合に対して無償または非常に廉価な料金で使用していることが多いと思います。

ここで、ひとつ疑問が浮かんできます。

分譲時点において専用使用権者が支払った対価は、分譲業者に支払っており、管理組合には支払っていません。この不合理を考えた管理組合は分譲業者を相手取って過去に訴訟で争っています。

駐車場専用使用権分譲代金返還請求事件(最高裁H10.10.22)
駐車場専用使用権確認請求事件(最高裁H10.10.30)

しかし最高裁までいった訴訟の結果は、専用使用権付き駐車場の分譲代金は、分譲業者のものとして決着し、その後、建設省(当時)の通達を経てH15.6月施行の区分法改正(30条3項:区分所有間の利害の衡平を規約に定める)に至るきっかけを生みました。

専用使用権の譲渡性 ~専用使用権は区分所有権の取得に随伴するのか~

平成10年以降の争いについては、おそらく下火となり、またこのような販売方式も採用されなくなったものと思いますが、過去の手法として残された専用使用権付き駐車場は今もなお存在しており、これを管理組合でどう取り扱っていけば良いのか、具体的には以下の2点に絞られると思いますので検討していきます。

  1. トラブル防止を目的とした規約改正をどうすれば良いのか?
  2. 部屋の売買などで駐車場の使用権は買主に移転していくのか?

規約改正については、区分所有権と駐車場の専用使用権とを分離処分されたり、それぞれ別々の者によって使用されてしまうことを防止することや、専用使用権の内容、譲渡性、期間、解約の条件、承継などについてを明記していく必要があります。

2の駐車場専用使用権の随伴性については、訴訟(駐車場専用使用権確認等請求事件:東京地裁H10.1.30)において、以下のとおり裁判所の判断が示されています。

ところで、本件専用使用権は、民法上のいずれの物権にも該当しないものであり、本件駐車場の債権的利用権にすぎないというべきである。しかし、本件専用使用権は、本規約においてその存在が認められ、区分所有者は規約に定める権利義務の一切を継承する旨規定されているから、Z1(分譲業者)から分譲によって区分所有権の譲渡を受けた本件マンションの区分所有者は、すべてこのような専用使用権の負担のついた共有部分の存在を認めざるを得ないことになる。
他方、債権は、原則として譲渡が可能であり、また、本件規約その他においてその譲渡性を否定する旨の約定はないから、本件専用使用権はZ2から順次移転して原告に至ったというべきである。(抜粋)

規約に、駐車場の専用使用権と権利義務の継承について明記されている場合、専用使用権の譲渡性について肯定されているといえることがわかります。

ただ、このままでは専用使用権者が永久的に無償または廉価な使用料で駐車場を利用することに不公平感を感じる区分所有者もあらわれると思います。

この問題について、区分法に定められた「区分所有者の利害の衡平」に従い、是正を目的とした規約改正に着手するとき、専用使用権者の「承諾」を得なければその規約改正が無効になる場合があるので注意が必要です。

それは、一方的に専用使用権を消滅させてしまうことはできない、ということです。判例において「規約改正が一部の区分所有者に特別の影響をおよぼすとき」に該当し、専用使用権者の「承諾」を得なければ規約改正ができないことが示されています。

有償化や値上げについては、その必要性や合理性が認められ、かつ設定された使用料が区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者の「承諾は不要」となります。

以上、いかがでしたでしょうか?

駐車場における専用使用権の法的性質の解釈が、私にとっては難しく、ある規約改正業務に着手しているとき、その都度その都度、立ち止まっては判例や参考書をあたっていた次第でしたが、その甲斐あって一定の理解を得たり、また過去の経緯にふれられたことは楽しくもありました。法曹界に従事する友人に話を聞いてもらいながら、前に進めた出来事でもありました。この場でもお礼を申し上げたいです。ありがとうございました。(あとがき)